センチメンタルの乗算。

特にヤマもオチもイミも無いお話をさせてください。

僕はバイト先に行くルートが3パターンくらいありまして、8割くらいの確立で通っていた小学校の前を通るのですが、その近くに『テナント募集』となっている建物があります。

ほんの8畳から10畳くらいのスペースで、少し前までは家具中心のリサイクルショップのようなお店だったのですが、入ったことはないのでよくは知らないです。

ですが、僕が小学校のころは『キッドナッパ』という名のゲームショップで僕が小学校4年生くらいから多分中学校の1、2年生くらいまでやっていたと思います。

小学校4年生の当時、学校近くにできたゲームショップに下校途中、僕らは喜び勇んで入るとズラリと並んだゲームの類。当時の僕らにとってはもう、宝の山でした。

そこにはサンプルとして、ゲーム機も置いてあって遊ぶ事も出来ました。

僕の記憶では2人ほど兄ちゃんがいて、いつの頃からか僕らはそこに入り浸るようになり兄ちゃんたちとサンプルのゲームで遊んでいました。主に格闘ゲームでした。

ゲームを買わなくても、お金を払わなくてもゲームが出来る。小学校当時の僕らにとって、そこが一番のプレイスポットになるのも必然だったと言っても過言ではないでしょう。

そんな、ある日いつのもように兄ちゃんたちとゲームをして遊んでいたのですが、何度やっても勝てなくて何度も兄ちゃんに挑戦していたのですが、やはり勝てなくて悔しくて僕は、その場で泣きだしたのでした。兄ちゃんは少し慌てながら「挑戦してくるからやんか」と言っていました。

僕は負けた悔しさと泣いてしまった恥ずかしさで、その場から逃げるように出て行き、その後も気まずくて行く事は無くなりました。

ただ1度だけ、その後行きました。

それは、それから1年か、1年半か経った、恐らく小学校6年生くらいの時だったと思います。どうしても欲しいゲームがあって、どこにいっても売っていなかったので、あそこなら売っているかも。…と入ったのです。

久しぶりに入った、その店は、何だか閑散としているように見えました。そう見えたのは、もう僕の居場所では無くなってしまったからでしょうか。

兄ちゃんは、まだ僕を覚えていました。

「おう…、タクマやん。ひさしぶりやな」

「…うん」

「今日は、どうしたん?」

「○○っていうゲーム探してるんやけど…ないかな?」

「…えらい古いゲームやな。そこに無かったらないわ」

「…無い」

「…じゃあ無いかな」

「…そっか、わかった」

そう言って出て行く僕に、兄ちゃんは

「また来てな」

と言いました。

なんだか寂しそうに聞こえたのは気のせいだったかもしれません。

そして、その後そこに行く事は、もうありませんでした。今では、もう撤退してしまって、前述した通り『テナント募集』になっているのですが、バイトに行く途中、そこを通る時たまにその事を思い出して、ほろ苦いような恥ずかしい気分になります。

今ではもう僕も当時の兄ちゃんと同じくらいの年か、下手すれば上の年になってしまいましたが、たまに思い出しては、こう思うのです。

兄ちゃん、あん時泣いちゃって、ごめんな。…と。