ワールドチケット

ちょっと思い出したことがあるので

書き記しておこうと思います。

それは10年以上前の話です。

当時バリバリライブハウスのピンスポット野郎として稼働しておりましたワタクシ。

その日も元気に出勤いたしました。

いざ出勤してみますと、少し変わった催しだと言うことがわかりました。

貸切レンタルのイベントだったのですが

ワンマンライブだったのです。

しかもオリジナル曲で。

レンタルのイベントはまあまあありましたが

オリジナル曲でのワンマンライブ。

となると僕が知る限り後にも先にもこの日だけだったように思います。

照明準備をしながら

控え室付近を通りますと

何やらギラついた目をしたスキンヘッドのおじさんと

目つきの悪い少年がいるのが分かりました。

どうやら彼らは親子のようでした。

スキンヘッドのおじさんは少年に

「ええか。全力出し切れ!」

的なハッパをかけているのが聞こえました。

完全に熱血お父さんです。

少年もゴリゴリにエンジンがかかっている感じで

鼻息荒く父親と会話をしているようでした。

聞こえてくる会話から察するに

何やら初ライブのようで

初ライブにしてワンマン。

しかもオリジナル曲。

なかなかの手だれです。

そうしてリハーサルが始まりましたが

まあなんのことはない。

ジャリバンと言えば聞こえは悪いですが、

普通に初心者チックなバンドでした。

しかし、全員のエンジンがかかっているのは

ギンギンにキマッている目つきで見てとれました。

やってやる。

ぶちかましたる。

まるでそんなことを言っているかのような

目で訴えかけていました。

バンド名は

「ワールドチケット」

と言うバンドでした。

そうしてリハーサルを終え、

私はピンスポットの定位置につき準備をしていました。

すると一報が入りました。

登場曲が流れたら、ボーカルが入ってくるときに

ピンスポットを当ててほしい。

と。

会場はいい感じの客入りで

お父さんの友達と

少年の学校かなんかの友達が

集結しているようで

なんとなく異常な熱気に包まれていました。

そうこうしているうちに

いよいよ開演時刻となり、

登場曲が流れ出しました。

ドラム、ベース、ギターが各々入場して

定位置につきましたがボーカルがなかなか出てきません。

ん?

どうなっているんだ?

と思っていると指示が飛んできました。

「入り口入り口!」

僕はハッとして入り口を振り返りました。

そこに立っていたのは、

先ほどのスキンヘッドのお父さんと、

そのお父さんに肩車をされている少年の姿でした。

少年は上裸の短パンで、

つまりボクサースタイル。

その両手にはグローブも着用していました。

僕は息を飲みながら彼らにピンスポットを浴びせかけたのです。

すると少年は高らかにガッツポーズを掲げ、

雄叫びをあげたのです。

「うおーーー!!」

完全に決まっています。

そのままお父さんは前進をはじめ、

少年を肩車したままVOXhall客席の階段を一段ずつ降りていきます。

客も客で少年にカツを入れるがごとく

背中を叩くなどしてリアクションしていました。

まさにボクシングの登場のそれです。

私はピンスポットでそれを追いかけました。

間も無く彼らはステージに辿り着き、

少年は父親の肩から降りると

シャドーボクシングをはじめました。

シュッ!

シュッ!シュッ!!

今にも風切り音が聞こえてきそうなそれを

もちろん私は逃さずピンスポットで押さえたのです。

ひとしきりシャドーをし終えると

父親が少年に近寄っていき

丁寧にグローブを外して掲げました。

そして、まっすぐにこちらを見たのです。

見てるかお前ら。

これが。

これがワイの息子の晴れ舞台や!

そんなことは一言も言っていませんが

もう目がそう言っていました。

あんな気持ちの良いドヤ顔は

後にも先にも見たことはありません。

そうして、父親はステージから降りて

両腕組みしながらステージを見守っていました。

少年はボーカルの定位置につきます。

するとガンガンに流れていたBGMがフェードアウトしました。

会場は沈黙に包まれました。

一体。。。

どうなるんだ?

私は固唾を飲んで見守っていると、

メンバー全員、アカペラでこう歌い出しました。

「ワールドチケットつかもうぜ〜!」

そうして一拍置いた後、

少年はこう言いました。

「おっしゃ!」

その声を皮切りに演奏が始まりました。

場内はもう熱狂の渦です。

お父さんを見ると、

「いけえ!」

と言わんばかりに叫んでいました。

僕は思いました。

最高やん。

と。

お前たちがチャンピオンだ。

と。

心から感服したのであります。

以上。

チャンピオンでした。

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