僕の自転車

彼にはどうしても欲しいものがあった。
最新型の自転車である。
24段可変式のマウンテンバイク。

だが、彼の家は子だくさん故に貧しく、
そんなものを買う余裕はどこにもなかった。

だから、彼も両親に言うことさえ出来ずにいた。

そんなある日、一人の紳士が彼の両親の元を訪れた。

話を聞くと、どうやら紳士は資産家で、
結婚もしているのだが、子宝に恵まれないらしい。
なので、子供の一人を養子に欲しい。という用件だった。

両親は食いぶちが一人でも減るならと、一番末の娘を
養子に出す方向に話が進んでいた。

「ちょっと待って!!」

そう叫び、彼は一も二も無く紳士と両親の間に割り込んだ。

「そんなの妹がかわいそうじゃないか!」

彼は反対した。いくら貧しいからといって妹を養女に
出すことなど出来なかった。

彼の強い反対により、その場はそれで収まった。

紳士は「また来る」と言って帰っていった。

あくる日、自転車屋さんの前を通ると
彼の欲しかった自転車が無くなっていた。

売れてしまったらしい。

『お金さえあれば。。。』

彼は自分の貧しい境遇を恨みながら、帰路についた。  
するとどうだろう。
玄関の前に、彼の欲しがっていた自転車が置いてあるではないか。

「君の欲しがっていた自転車だろう?」

後ろから声を掛けられ彼が振り向くと、
そこには昨日やってきた紳士がいた。

「養子をもらえるなら、その自転車を君にあげるよ」

紳士のその言葉に彼の胸は高鳴った。
『この自転車が僕のものになる。。。』

彼は迷うことなく妹を養子に差し出した。

そして、妹は紳士に引き取られていった。

何も知らずにつれられていく妹を見て彼の心は痛んだ。
彼は自転車一台と妹を引き換えにしたのだ。
その事実が彼を苦しめた。

彼は二度と忘れることはなかった。
二人が自転車の向こうに遠ざかってゆく姿を。。。

そして出来たのが、この標識らしいですよ。





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